馴染みの音楽の効果

今日は午後から別部署で行われるオイリュトミーの伴奏を依頼され、私の施設の利用者3名も一緒に参加して頂きました。
会場は徒歩7~8分ほどの入所施設の敷地内の、広くて天井が高いホールです。グランドピアノもあります。

他部署からの参加者は1名(Kさん)、車椅子に座って肘掛に上半身の体重をのせてもたれかかり、下を向いておられました。
何かの事情で情緒が不安定となり、生活介護施設での活動に参加することが難しい状態とのことでした。

オイリュトミーが始まり、モーツアルト「きらきら星変奏曲よりテーマとVarⅠ」、ギロック「こどものためのアルバムよりサラバンド」、シューマン「子供の情景より異国から」に合わせて動作を行っていきました。
音楽に合わせて立位で動く中、Kさんは反応がありません。職員が車いすを押したり、動きを促したりするのですが、無表情で下を向いたままでした。

10年ほど前の元気でいらした頃のKさんとの関わりで、昭和歌謡や童謡がお好きであったのを知っていたので、モーツアルトやシューマン等のクラッシック音楽で反応を引き出すのは難しいのでは…と様子を見て感じました。

そこでプログラムの合間にピアノから離れてKさんの前に行き、「何か歌いたい曲はありませんか?」とお尋ねしました。オイリュトミストも近寄ってKさんの様子を見ておられました。
Kさんは「ん?」と顏を上げられ「坂本九」「幸せなら手をたたこう♪って」とつぶやきました。
私はご本人の足元の床に座って「幸せなら手を叩こう」を歌い始め、他の3名の参加者にも近くに椅子を移動して座って頂き、順番に「どこを叩きますか?」と尋ね、「足」「頭」等と答えて頂いた場所を皆さんと歌いながら叩いていきました。
Kさんに「どこを叩きます?」と尋ねると「肩」と答えられ、Kさんも歌いながら肩を叩き、笑顔も見られてきました。

「他に何か歌いたい曲はありますか?」とお尋ねすると「うみ」と。今度はピアノ伴奏に合わせて全員で歌いました。そしてさらにKさんは「みかんの花咲く丘」をリクエストされ、伴奏に合わせて支援者が車椅子をゆっくり押し、全員で輪になりゆっくり動きながら歌われていました。
「Kさん、ピアノまで声が聞こえるようにお願いします~」と声をかけると、大きな声で歌って下さいました。

Kさんの意欲が上がり、表情も良くなったところで、「今日はね、ドイツのオイリュトミーという有名な体操をするために集まったんです、やってみませんか?」と話し、バッハのブーレに合わせて最後に全員でリズムをとる動きを行い、セッションを終了しました。
オイリュトミーあり、歌唱ありのセッションでした(笑)

本日の支援で感じたこと・・・
プログラムはその日の対象者に合わせて、様々な変更に耐えうる柔軟なものであってほしいと思います。
どの曲を用いるか、それを状況と目的に応じていかに加工して提供するかが音楽療法では重要なポイントとなります。例えばテンポ、音数(音数の多さは聴覚刺激の多さでもある)、音量、音質、リズム、ハーモニー等、変幻自在に加工できるほど強い武器となります。
その加工(アレンジ)は、療法士の自己実現の手段であってはならず、あくまでも対象者への支援の必要性に即した道具作りです。
元となる曲やフレーズの選択においても、様々なジャンルの引き出しを持ち、それぞれの特性を使い分けられるとより有用です。
演歌あり、クラッシックあり、ポップスあり、フォークあり、ロックあり、ボサノヴァあり、シャンソンあり・・・

知的障害を抱える方の音楽療法において、クラッシック音楽は扱いが難しいと感じています。
私は歌唱でも合奏でも、クラッシック音楽はほとんど使いません。曲の完成度が高く加工に抵抗を感じたり、知的障害のある方にとって認知しにくい複雑な構造であったり、200~300年前に生れた西洋の音楽が現代の日本人で知的障害を抱えて生きてこられた方にどれだけ馴染むのか等と考えます。

バッハ、モーツァルト、ベートーベン、ショパンなど、その国・その時代ではセンセーショナルかつ人々の心を強くとらえたと思います。現代日本の文化の中で生きていて、テレビを中心に音楽を聴取している方々にとっては、心を躍らせた音楽はどのようなものであったのか・・・

私が歌唱活動で使うのは、参加者自身が好きで大事に思っておられる曲、また他の人が歌うのを聞いて参加者自身も歌いたいと思われた曲です。
また合奏で使用する曲は、知的障害を抱えた人のために分りやすく構造化され、日本の文化や日本語の歌詞と馴染む、かつ目的に応じて情緒的であったり躍動的である曲です。それらは宮城教育大学附属特別支援学校等で音楽療法の実践をされている音楽療法士の高山仁先生が、知的障害を持つ方の音楽療法のために作曲されたもので、本当に素晴らしいです。

高山先生の曲を使って音楽活動を行ってみると、その配慮された作りに驚きます。曲の長さ、構成、使用する旋法、リズム、伴奏形など、全てにおいて支援上の理由があるのです。私の大学院での研究も高山仁先生へのリスペクトです!

・・・お風呂に2時間も入りながらずっと考えていて、「やっぱり覚えているうちに文章にしよう」と思い立って記しはじめたらこんな時間に・・・


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Commented by TG at 2017-01-26 16:55 x
とっても興味深く拝見しました。いつかこの件で(もちろん研究のことその他もろもろも含めて)お会いしてお話し伺いたいです。
Commented by liddell97 at 2017-01-26 23:15
> TGさん
書き込みありがとうございます。有難きお話、是非お願いいたします。評価バッテリーは音楽行動以外ほぼ決まりまして、ご意見を頂けましたら嬉しく思います。また介入の期間、頻度などに悩んでおります…
by liddell97 | 2017-01-25 03:37 | 音楽療法 | Comments(2)

横浜市にある障がい者施設の職員です。~ 日々、心が喜ぶものを ~


by liddell